ドーナツに穴

ドーナツの穴

twnovelを元に書いた小文を折本にしたり、EPUBにしたりします。うろ覚えな話もします。

海外ドラマ「ハンニバル シーズン1」感想

ひさしぶりの記事のため編集方法の変わりように戸惑っています。

内容詳細


海外ドラマ『HANNIBAL/ハンニバル』 シーズン1 (予告)

ハンニバル・レクターの若き日を描いた映画『レッド・ドラゴン』の登場人物を引き継いだ、オリジナルストーリー。 FBI捜査官ウィル・グレアムとの関係を描く。『羊たちの沈黙』、『レッド・ドラゴン』に描かれる前のハンニバル・レクターは、FBIで働く優秀な精神科医だった。彼の仕事は、連続殺人犯の精神を見ることができるという天賦の才能を持ちながら、同時にそれに悩まされている特別調査官ウィル・グレアムを助けることであった。ウィルの精神状態を診る役目だったレクターだが、次第に犯行現場にも立ち会う様になる。殺人事件の捜査でウィルに協力しながら、本性を覗かせていくレクター。善と悪の狭間を彼は歩いていく。(amazon prime video より)

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前置き

今回は、海外ドラマに挑戦してみたいと思います。

この作品は、映像のルックが非常に美しく、演出も素晴らしいです。また、各話にサイコホラーやアクション映画のオマージュがあり、違和感なくストーリーに溶け込んでいます。

舞台はアメリカなのですが、ヨーロッパの雰囲気が強いです。それが役者選びにも表れています。マッツ・ミケルセンをはじめとする男優はもちろん、女優陣も画一化された美人ではありません。

特に原作に沿ったハンニバル・レクターの登場はトマス・ハリスを一度でも読んだことがある方であれば、感動ものだと思います。アンソニー・ホプキンスレクター博士にまったく不満はありませんが、いかんせん痩身ではなかった。

ただ自分は、この作品を娯楽作品として楽しめたとは言い難いです。

犯罪捜査ものとして視聴を始めたため、男性二人の恋愛劇だと気づくまでに時間を要した。これが最大の敗因だったと思います。

共感能力

主役のウィル・グレアムは原作のグレアムとクラリススターリングが融合した存在です。共感能力によって事件と犯人像を読み解きます。

ただ、この共感能力がどのような過程で犯人像を導き出すのかという機序がドラマ内では示されません。ウィルは「証拠を見ている」と言いますが、その証拠から結果に至るまでの道筋はブラックボックスです。

これでは、彼の能力を超能力か魔法と見る他ない。このドラマに対する不満は、ここに尽きます。

ちなみにトマス・ハリスのグレアムも共感能力を用います。しかし、原作では他の人間が気がつかないような点に着目し証拠を分析する。基本的に古典的なシャーロック・ホームズの方法を踏襲しています。

四角四面にすべてとは言いませんが、もう少し推理してくれたら、ありがたかったです。

THIS IS MY DESIGN

シーズン1を網羅しての所感ですが、このドラマはヤングアダルト小説の映像化、「トワイライト」のようなヴァンパイアものに近い作品ではないかと考えました。


【3分でまるわかり「トワイライト」の世界】

登場人物や物語に思春期の学生、学校の印象が強いです。同じく殺人鬼を扱った海外ドラマ「デクスター」も初期に警察を学校に見立てていました。スクールカーストという弊害はアメリカにおいても重要課題なのでしょう。


デクスター シーズン1~3ダイジェスト映像

 

ここからは、シーズン1最終話のネタバレになります。すごく長いです。ご笑覧いただければ幸いです。

 

死んだホッブズの娘、アビゲイル殺害への関与を疑われたウィル・グレアムはFBIの捜査に協力し、身体検査を受ける。ウィルはアビゲイルの耳を吐き出した上、爪の間には血液、腕には被害者の抵抗を示す擦過傷という惨憺たる有様だった。

※身柄を拘束されるが逮捕はされない。おそらく形式上は任意の捜査協力と思われる。

自宅の家宅捜索の結果、模倣犯の仕業と目されていた遺体の一部がウィルの私物から発見される。アビゲイル殺害は判断がつかないウィルだったが、他の被害者については犯行を否定する。しかし、証拠はウィルが犯人だと告げていた。BAUのチーフ、ジャック・クロフォードはウィルを正式に逮捕する。

※この後、護送車からの逃亡劇となるが、まず親指の関節を脱臼したくらいで手錠を外せるものだろうか。こんなことが可能であれば、リドリー・スコット監督版「ハンニバル」ラストでのレクターの行動はお笑い草になってしまう。だが、ここで重要なのは可能かどうかではなく、ウィルが犯罪者であるエイブル・ギデオンの方法で脱出する件なのだろう。

ウィルは司法の体現であるジャックから離れ、レクターの側へ降った。

ウィルの逃亡を受け、ジャック、精神科医であるレクター、同じくアラーナ・ブルームの三者会談となる。アラーナは逃亡前にウィルと面会した際、行ったテストについて話す。認知能力を測るためのテストで面会時のウィルが異常な状態にあったと明らかになる。自分も同様のテストを数週間前に行ったと話し、レクターは二人に正常な結果を示す。

※おそらく警官やFBIは捜索に当たっているものと思われるが、まったく描写されない。外界が存在せず、まるで箱庭のようだ。テスト結果である時計のデザインは素晴らしい。レクターが正常な結果を自ら提出してきたため揺らいでいたアラーナの信頼は回復する。ジャックはウィルがサイコパスである可能性について考え始める。二人の関心はウィルに向かう。

レクターは逃亡中のウィルから訪問を受ける。二人は、これまでの事件を振り返る。

※時間の感覚が消失している。いくら経緯を省略したからといって時間は流れているはずだ。視聴者にも認知テストを強いる気か。

脳炎の症状が一時的に落ち着いたウィルは事件の全容を解明するためレクターに、すべてが始まった場所ミネソタへの同行を依頼する。

※事件の真相を知らされていないのはドラマの登場人物だけである。視聴者にはすでに開示されている情報だ。新しい展開は皆無、こちらは驚きようがない。予定調和である。

さすがにカーチェイスを期待したが、甘かった。道路封鎖や検問などという概念が劇中に存在していない。FBIの認識ではレクターを誘拐しての逃避行であり、登場人物の持っている情報だけで彼らの目的地がミネソタであるのは明らかだ。なぜなら、アビゲイル殺害の現場だけはウィルの共感能力によって捜査されていない。犯人像を正確に掴めなかったとしても、彼は自分の犯行か否かを確認できる。「証拠は裏切らない」からである。

ただ演出意図は明確だ。夜の静寂を走る車中でウィルとレクターは外界から切り離される。これから起こるエピソードは社会とは関係ない。二人の個人的な体験になるという宣言だろう。

アビゲイルホッブズの自宅で彼女が殺害された現場を検分する。夥しい血液の量と飛沫の状態からアビゲイルは首の動脈を切断されたらしいとわかる。彼女の父親であり、殺人犯のギャレッド・ホッブズも同じ場所、同じ方法でアビゲイルを殺そうとし、ウィルに射殺された。ウィルはホッブズの影につきまとわれていた本当の理由に行き当たる。ホッブズという証拠が指し示していたもの、それはチェサピークの切り裂き魔ハンニバル・レクターだった。

ウィルはレクターに銃口を向ける。

※ ここはまさに「あなたが足長おじさんだったのね」という場面になる。死体というプレゼントを贈りつけてきた相手なのだから間違いとも言い難い。ウィルの言う「証拠を見ている」という言葉は嘘ではないらしい。相変わらず、推理の過程は不明。

ともあれ、育ての親であり、恋人だったレディ・ムラサキにさえ拒まれた怪物、レクターの本性とウィルは対峙した。

途中介入してきたジャックによって最初の事件、ホッブズの殺害現場が再現される。ウィルはジャックの銃撃により被弾、レクターは事なきを得る。ウィルは治療後、殺人犯として収監される。

拘置所を訪ねたレクターはウィルに面会する。二人は初対面のように挨拶を交わす。 

※誰も知らない真実を共有する間柄になった。恋愛の成就と見て差し支えないだろう。箱庭に円環構造、閉塞感で窒息しそうな世界観だ。

鉄格子越しの対峙はマイケル・マンの「刑事グラハム」からだろうか。グレアムは若き日のウィリアム・ピーターセン、「CSI特別捜査班」のグリッソム役が有名。


Manhunter Official Trailer #1 - Brian Cox Movie (1986) HD

後書き

完走できて良かったです。シーズン2にメイスン・ヴァージャーが登場するらしいという情報を頼みに頑張りました。

これからの展開に期待することは以下の3点です。

・とにかくメイスン・ヴァージャー。あとチルトン博士も気になります。

・チェサピークの切り裂き魔の逮捕劇。ド派手なのを希望。

・犯罪要素が耽美な雰囲気を醸し出すための背景に過ぎないことは承知ですが、もう少し証拠と結果の機序を。30秒程度で構いません。


海外ドラマ『HANNIBAL/ハンニバル』 シーズン2 (予告)

donutno.hatenablog.com

余談

銃について

http://www.imfdb.org/wiki/Hannibal_-_Season_1

こちらのサイトによるとウィル・グレアムの銃は「シグザウエルP226」なんですね。正式な捜査官ではなく、あくまでアドバイザーという立場なので銃はジャックの許可を得た持ち込みなのかな。質実剛健で知られる銃ですが、映画版「ハンニバル」でもクラリスが所持していました。ドラマとの繋がりを考えて感慨深いです。

また、「ロボコップ」のアレックス・マーフィの銃でもあります。

E2にあるビヴァリー・カッツがウィルに銃の指南をするシーンとよく似た場面が「ロボコップ」にも存在しています。(05:25~)


Anne Lewis A Tribute - Robocop

原作のグレアムを解体し、改めてドラマのキャラクター、ウィルを構築したという示唆なのかも知れません。

記事に参照した作品について

レッド・ドラゴン〔新訳版〕 上 (ハヤカワ文庫NV)

レッド・ドラゴン〔新訳版〕 上 (ハヤカワ文庫NV)

 
ハンニバル(上) (新潮文庫)

ハンニバル(上) (新潮文庫)

 
ハンニバル (吹替版)

ハンニバル (吹替版)

 
トワイライト?初恋?

トワイライト?初恋?

 
デクスター シーズン1<トク選BOX> [DVD]

デクスター シーズン1<トク選BOX> [DVD]