ドーナツに穴

ドーナツの穴

twnovelを元に書いた小文を折本にしたり、EPUBにしたりします。うろ覚えな話もします。

海外ドラマ「ハンニバル シーズン2」感想

 今回の台風は本当にすごかった。風雨の轟音に泣きそうでした。

被害に遭われた方、並びに近親の皆さまには、お見舞いの言葉もありません。一刻も早い復旧がなされますよう祈るばかりです。

内容詳細


海外ドラマ『HANNIBAL/ハンニバル』 シーズン2 (予告)

FBIの天才プロファイラーがFBIから追われる身に。キャラクター間の危険な駆け引きは、予期せぬ方向へと進んでいく。そしてもう後戻りはできない・・・。 ウィル・グレアムは、ハンニバル・レクターが犯した殺人の罪を着せられ、精神病院に収容された。ハンニバルの正体を知ったウィルは、自分の正気を証明し、無実を周囲の人間に信じてもらうための戦いに直面する。

amzn.to

 前置き

donutno.hatenablog.com

 前回に引き続き、雑文を書き連ねますが、どうかご容赦ください。

さて、現代を舞台としたエンターテイメントでは一般的に信条、法の正義、経済的な損得勘定などが登場人物の行動を決定する要素だと思います。しかし、このドラマの劇中では誰に肩入れするのかという人間関係に終始、拘泥します。

あたかも恋のさや当てを中心とした権謀術策の宮廷劇か、悲劇もののオペラといった様相でした。最後は血の惨劇というのも所感を補強してくれます。

また、ウィル・グレアムの共感能力による捜査は写真などの数枚の資料から導き出され、時間の遡行まで自在であり、現場に出向く必要さえありません。

ウィルの能力は、「魔法」または「超能力」と受け取る他ないようです。

メイスン・ヴァージャーの登場は個人的な肝だったのですが、演出があまりにもあからさまで面白みに欠けた感はあります。フレデリック・チルトンのような普通の人物像であれば、彼の異常な精神や行動が、より際立ったように感じました。

ただ出演回数の短い中、わかりやすさを優先した正しい判断だとも言えます。

今回は耽美要素を背景に人間模様を描いた恋愛劇であることを踏まえて視聴したため、とても面白かったです。

FRAGILE LITTLE TEACUP

ここからは、シーズン2最終話のネタバレ感想になります。おそらくすごく長いですが、ご笑覧いただければ幸いです。

 

ウィル・グレアムはハンニバル・レクターの企みにより殺人容疑で一時収監される。だが、新たな殺人事件の被害者からウィルの自宅で回収された証拠品と同じ人物の遺体の一部が発見され、検察は立件要件を失った。

ウィルに代わりフレデリック・チルトンの容疑が濃厚となり、表面的に平穏が戻ってくる。

ウィルはFBIのアドバイザーとして再び、犯罪捜査に復帰した。一方、レクター逮捕のため自ら囮捜査を買って出る。レクターはウィルの計略に乗り、ジャック・クロフォードの殺害を企てる。

ジャックの妻、ベラを見舞ったレクターは彼女と許しについて会話する、レクターは彼女の自殺を妨げ、病に苦しんでいるさまを眺めて全能感に浸っていた。

レクターは身辺整理を始めるが、その最中にウィルからフレディ・ラウンズの香水を嗅ぎ取る。レクターはラウンズの生存を知った。

※裏切りは最大の無礼であると考えられるが、レクターはウィルを罰しない。

「許しは訪れるもの」というベラの言葉から、レクターにとってウィルは自由意思に反したとしても不可抗力的に許しを与えてしまう相手であるらしい。

レクターは「記憶の宮殿」について完璧な場所ではない、と語る。

※原作の「記憶の宮殿」はレクターの記憶が隅々まで網羅された万能の脳内領域である。しかし、むしろウィルの記憶の宮殿である「川」のほうが単純なだけに完成度が高いようだ。

トマス・ハリスのレクターは「ハンニバル」において作者の理想を体現する投影物となった。欠点を持たない人物として描かれている。この相違点は非常に面白い。ウィルの「記憶の宮殿」もまたドラマのオリジナルだ。

ウィルとレクターは食事をともにする。レクターはジャックとの共謀を告白するよう求めるが、ウィルは応じない。

※ウィルは「彼に知らせたい」と言う。以前、ピーターに語っていたようにウィルの考えはレクターに対し、復讐一辺倒には定まっていないらしい。

ジャックは「正義」を求めているとウィルは言う。

収監が解かれてすぐレクターを襲撃したウィルの言葉「正義(righteous)」とジャックの言う「正義(justice)」は異なるものの重なる部分も多い。ウィルとジャックの目的は同じと見て差し支えないだろう。

監察官ケイディ・プラネルがジャックのもとを訪れる。

※捜査の違法性、ジャックの休職、ウィルの逮捕状、作戦の中止により仕切り直しが行われる。「最後の晩餐」の準備をしたのは事実上、プラネルだ。ジャックの作戦が遂行されれば、到底、レクター一人では戦えない。舞台装置を整えるために登場した人物である。

ウィルはレクターに官憲の手が及ぼうとしていると告げる。

※ここまでお膳立てしてきたにもかかわらず、ウィルはレクターに逃亡の機会を与える。

レクターは襲撃してきたジャックとアラーナを斥ける。

※全体的にいささか冗長。予想外の出来事は存在しないため、ただ眺めるしかない。

対ジャック戦もフィッシュバーンが「マトリックス」の状態であれば、と悔やまれる。ミケルセンは運動能力が高そうなので返す返すも残念である。


Virtual Combat - The Matrix (4/9) Movie CLIP (1999) HD

後からレクター邸に乗り込んだウィルはアビゲイルホッブスの生存を知る。

アビゲイルは監禁状態でレクターに保護されていたらしい。

レクターはグレアムに重傷を負わせる。

※原作と同じ武器、傷害、この後、グレアムは腎機能に障害を負ってしまう。映像作品では反映されていない設定だと思う。

アビゲイルの生存についてレクターは、「割ったティーカップが元に戻った」と話す。その後、アビゲイルを殺害した。

ウィルは黒いトナカイが息絶える幻影を見る。

※ここで、またアビゲイルの父親、ホッブスの犯行が再現される。

ホッブスの幻影や黒いトナカイはレクターの影響を表すものだと思っていたが、そうではなく、ホッブスの殺人衝動をウィルの共感能力が取り込んでしまった結果だったようだ。アビゲイルへの思いと結びつき、他の事件の場合よりも強く彼の中に残っていたのだろう。レクターは、ウィルの心理状態を利用してホッブスの欲望を彼の本質だと作為的に誘導した。しかし、アビゲイルの死とともに、その誤謬は正される。

ウィルを解放したのは、レクター側からの三行半と思われる。

国外逃亡に成功したレクターは祝杯を挙げる。同行のべデリア・デュ・モーリアは祝杯を拒否した。

※レクターは「永劫回帰」の中にあるのではないか。神の否定、美術、美食など快楽の追求、凡庸さへの侮蔑に耽溺する彼はニーチェの言うところの「超人」と共通点が多い。そう考えると劇中の箱庭、円環構造は必然なのかもしれない。

レクターがシーズン1、2ともにポイントを取った形に終わった。

後書き

今回も完走できて良かった。シーズン3ではチルトン先生の出番があるようなので楽しみです。

今後の展開に期待することは次の三点です。

  • とにかくチルトン博士に会いたいです。
  • ド派手な逮捕劇が見たいです。
  • レッドドラゴンが背中の入れ墨を見せるシーン。


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シーズン2を視聴していてウィルとレクターを演じる二人の俳優の忍耐力に驚かされました。

映画「ロボコップ」に、こんなエピソードがあります。役員専用トイレで副社長のジョーンズと若手役員のボブ・モートンが喧嘩になるのですが、ヒートアップした二人の顔は、かなり近づいていました。

演じた俳優はコメンタリーで「キスしそうになった」「危なかった」と告白しています。ある程度以上、接近すると人間はジェンダーに関係なく、目前の相手とのキスを欲する本能があるようです。過度の緊張に耐え切れないのでしょうか。面白いですね。


Robocop 1987 bathroom scene

マッツ・ミケルセンヒュー・ダンシーは非常に接近した演技をしています。俳優は緊張をコントロールできるんだと改めて感心しました。

余談

S2E12に自分を切り刻むメイスン・ヴァージャーをレクターとウィルが見物する場面がありました。そこで、似たシーンのある映画をご紹介してレヴューを終わりにしたいと思います。

映画「メカニック」は、1970年代にチャールズ・ブロンソン主演で公開されました。

殺し屋アーサー・ビショップと弟子の青年、スティーブ・マッケナとの同性愛的な関係性は脚本家が意図的に自分の属性を表現した結果です。

当時、エンターテイメントは男性に向けて制作されていました。女性やマイノリティは度外視される傾向が大でした。そのため男性が受け入れやすかったホモソーシャルの文脈に則って男性二人の関係を描いています。

自殺する女性を二人の男性が酒を飲みながら鑑賞するという非常にミソジニーの強い場面です。このような形で情愛を表さざる得なかった脚本家の心中は計り知れません。


The Mechanic (3/10) Movie CLIP - Slow Sleepy Suicide (1972) HD

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