ドーナツの穴

twnovelを元に書いた小文を折本にしたり、EPUBにしたりします。うろ覚えな話もします。

第7回短編小説の集い「のべらっくす」に参加しました

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参加作品

▼お題「未来」で書きました。(1300字弱)

ノーフューチャー

 封筒を覗いた牧野正(まきの ただし)は、眉をひそめる。中には小額紙幣が三枚入っていた。
「これ何ですか?」
 対する中年の男は居心地悪そうに身動ぎする。ファーストフード店の座席の合皮が彼の尻の下で耳障りな音を発していた。
「お母さんと話し合ったんだけど、正君も、もう中学生だし。定期的に一定額のお金を渡したほうが良いと思うんだ」
 つまり、小遣いである。
「用事それだけ?」
 正は、テーブルを人差し指で示した。合成樹脂のトレイの上にチーズバーガーとコーラ、フライドポテトが並んでいる。
「まあ、うん。……そう」
 所在なげに男は、アイスコーヒーのグラスを掴んでいた。
「ほら、まだ籍を入れたわけじゃないから。お母さんの不在に家へ上がるのは、ちょっとね」
 正は、母親の再婚相手を眺める。可も不可もなく、中肉中背で見るべきところのない男だ。
「正君は、陸上をやってるんだよね?」
「え? はい」
 話しかけてくるタイミングが、これまた唐突である。
「そういうので、お金がかかる時は、別に言ってもらってかまわないんだ」
「じゃあ、母さんに言います」
 チーズバーガーを咀嚼している正の前で男の顔は不機嫌になった。
「そうなんだけど、ぼくに言ってもらってもいいから」
「ああ、はい」
 茶封筒を素早くスクールバッグにしまう。
「もう食い終わったんで、いいですか?」
 正は、トレイを掴んで立ち上がった。
「あ、うん。引き留めてごめん。悪かったね」
「いえ。それじゃ」
 空の容器を分別してトラッシュボックスへ放り込む。入口の自動ドア越しに正と同じ制服を着た少年が見えた。ことさらゆっくりと歩いている。腕を不自然に下げ、前屈みに目を剥いてゾンビの動作をなぞっていた。

「誰、あれ? 誰、誰」
 ゾンビは、同級の佐竹だった。正と同様、母子家庭に育ち、この辺りの基準をもってしても困窮している。軽い多動で識字障害もあったが、母親は彼を気にかける暇がなかった。
「母さんの再婚相手」
「マジで? 普通じゃね?」
 正は頷く。
「普通」
「仕事は? 何やってる人?」
 記憶をたどり、正は答えた。
「銀行だって」
「スゲー! 正は金持ちになったのかよ!」
「知らねえ。でも、金くれた」
 正は、佐竹に茶封筒を渡す。
「三千円? 塩っぱいな」
「そうかな?」
「いや、それなりだけどさ。銀行って聞いたから」
 封筒をひらひらさせ、佐竹は言葉を継ぐ。
「金の延べ棒とか考えてた」
「入らないだろ。延べ棒は」
「うん。入らないな」
 母親が再婚すれば、他人と同居することになるのだ。これまでとは、まったく違う生活になる。
「金あるんだからさ。ハーゲン! ハーゲンダッツ、食おうぜ!」
 佐竹から封筒を取り上げ、破り捨てたい衝動にかられた。
「俺はいいよ。その金。佐竹にやる」
「何で? 正、おまえ。あそこのミミズバーガーを食べただろ? 脳みそが腐ってゾンビになるんだぞ」
 戸惑っている佐竹を置いて正はかけ出す。人波をすり抜け、車道へ飛び出した。クラクションと怒号に構わず、向かいの歩道へ横切る。
 叶うことなら、怪物と化し、全人類を滅ぼしたかった。(了)

 

▼参加作品の感想を書きました。

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